「つり人生」 土師清二 (あとがきより)
二見書房から「釣魚名著シリーズ」に参加を求められて二ッ返事で引きうけた。
正直いって、うれしかった。
頽齢八十三歳、もはや現役の釣人ではない。
竿はケースにおさまったきり、魚籠は棚でほこりをかぶっている、
道具入れの小ダンスは押入れのなかに置いたままになっている。
このところ、実際に釣から遠ざかっていて、
車窓か、机上か、もっぱら追憶、空想の中で釣をたのしんでいる。
発行 | 題 | 著者 | メモ |
---|---|---|---|
1974.3.30 | 釣りひとり | 山村聰 1910-2000 |
この本を読んだ時、俳優山村聰のあの渋いマスクはこんな知性に裏打ちされているんだと感心してしまった。 100余頁のヘラ竿薀蓄を巻末に収めた名著。 |
1974.7.25 | 釣り六十年 | 西園寺公一 1906-1993 |
サイオンジキンカズと読みます。間違ってもコウイチさんなどと呼んではいけません。 日中友好の立役者・民間外交官の釣道楽、海外での釣り、日本での釣り。 西園寺さんには岩波新書の「釣魚迷」という釣歴50年の記念著書があり、これは60年の楽しい釣の履歴書です。 お祖父さんが戦前首相をつとめられた西園寺公望さんですから、孫が中国で太公望を気取ってもちっともおかしくありません。 |
1975.3.31 | 釣山河 | 山本素石 1919-1988 |
ノータリンクラブと称し一時期ツチノコを追っかけまわした徒党の首領。 月刊「釣の友」に同名の「釣山河」と題した連載の自選集。 「尋常小学校卒業後、各種学校や塾を遍歴したが、1つも卒業せず職業も転々として自由業に終始した。」とつり人社の著者経歴にあるが、見事な随筆を書き、挿絵も素人裸足?否、玄人跣。 |
1975.6.30 | 釣りの楽しみ | 瀧井孝作 1894-1984 |
「鮎の里や目におぼえある山の形(ナり)」、昭和21年の句です。戦争が終わってやっと鮎釣りにこれたという安堵感が好きです。 1954.7.30発行、角川新書、「釣なかま」の20篇に、その後の文章18編を加えた釣随筆・句集。 寡黙で、遅筆な作者の口籠もりした声が聞こえそうです。 巻頭に高崎武雄撮影の著者友釣りの雄姿が添えられています。 |
1975.10.20 | つり人生 | 土師清二 1893-1977 |
「惜竿記」・無差別空襲に一家内みんなで吸いこまれた三代目竿忠の話、「竿師」・「竿忠の寝言」から取材した初代竿忠一代記、著者ならではの竿忠の話を読むことが出来ます。 |
1976.2.25 | つりの道 | 緒方昇 1907- |
釣号、釣禅堂魚仏。毎日新聞社記者、詩人。 大物釣り、磯釣りの先駆者。 1962年創思社「魚ごころ釣ごころ」、1967年現文社「魚との対話」に次ぐ心のこもった釣のエッセイ集。 函は雪枝夫人の魚拓・ホウボウ、巻頭写真は永田一脩撮影。 |
1976.5.10 | わが釣魚伝 | 福田蘭童 1905-1976 |
1966年報知新聞社「蘭童つり自伝」に、「釣友録」、「釣三昧」を加えた随筆集。 笛吹き童子の蘭童さんは誰からも愛された天才です。「室生犀星と私」は秀逸。 このあとがきを書いてから半年後に亡くなっています。 |
1976.7.10 | 釣ろう・釣る・釣れた | 末広恭雄 1904-1988 |
オサカナ君の大先輩、たぶん初代お魚博士。 釣から考えた魚の生体科学書。謙虚に通読すれば釣のヒントを発見することが出来るでしょう。 |
1976.12.28 | 荒野の釣師 | 森秀人 1933- |
「思想の科学」編集長、考古民族学研究者、名人位の釣人で完訳=釣魚大全の翻訳者。 「荒野の釣師」は寺山修二が名付け親。評論家へら師の戦闘的名著。 |
1977.7.20 | 垢石釣游記 | 佐藤垢石 1888-1956 |
佐藤垢石は釣ジャーナリズムの元祖といって良いだろうし、鮎の友釣りをはじめ、山海の釣りを啓蒙した功績者といえる。 本書は二見書房が企画し、島村利正が垢石の著作から44編を選んだものである。 |
1978.1.20 | 釣魚遍歴 | 高崎武雄 |
報道カメラマン、釣りのペンクラブを創設。 八十八夜は青ギスの脚立おろし、それから導了杭の海津釣り、今は無き懐かしい釣りの記録者。 |
1978.6.12 | 釣人物語 | 林房雄 1903-1975 |
1973年浪曼発行、「釣人物語・緑の水平線」の再版。 「微風釣糸を吹き、嫋嫋として十尺長し。興尽きれば釣もまたやみ、帰り来って我が盃を飲む」 |
1978.11.20 | 釣の風土記 | 亀井巌夫 |
この本の函絵は著者の敬愛する加藤八洲画伯の作品、青い目の女帝にあまごの王冠。 岩魚、アマゴ(山女魚)、鮎、渓流釣と釣り場の名風土記。 |
1979.7.25 | 釣のうたげ | 室生朝子 1923-2002 |
1974年立風書房「私の釣りの旅」に続く、釣り随筆第2集。 福田蘭童の著書に出てくる、室生犀星の出戻り長女・朝子さんは岡っパリのヘラ釣り婦人です。 |
1980.7.25 | 湿原のカムイ ―幻のイトウを追って |
佐々木栄松 | 最後に手に入れた本です。書き散しの寄せ集めでは無く、真摯に書かれた道東・釧路湿原の釣と、そこに暮らす人たちの随筆でした。洋画家である著者自身のイトウと産卵を終えたサケの挿絵は額装したいくらいの出来です。 |
1982.5.20 | 釣魚大全紀行 | 山本清 | I.ウォルトン縁の地を訪ね、英国駐在中に鮭、パイク、虹鱒を追いかけた紀行文。もお少し書き込めば英国釣風土記になったと思う知られざる名作。 |
1982.6.15 | 鮎釣り海釣り | 稲葉修 1909-1992 |
衆議院議員。第1次田中内閣・文部大臣、ロッキード事件のときの三木内閣・法務大臣。日本全国の鮎釣り、郷里三面川の釣り、家族揃って海の釣り、パラオまでも行ってしまうエネルギッシュな稲葉翁。角栄のとなりで清く生きた政治家釣師の名著。 |
以上17冊が二見書房・釣魚名著シリーズと呼ばれています。
しかし、この17冊の前に二見書房から名著シリーズとして出版された本と、
予告されましたがとうとう出版に至らなかった本があります。
発行 | 題 | 著者 | メモ |
---|---|---|---|
1974.2.20 | 魚狗の歌 | 笠木實 | 序文、岡鹿之助。画家による釣りの随筆画集。 |
ダイナミック・フィッシング | 服部善郎 | 未刊 | |
鮎釣記 | 島村利正 | 未刊 |
笠木實著、「魚狗の歌(かわせみのうた)」は釣魚名著シリーズの第1巻として出版されましたが、
1ヵ月後に出た山村聰の「釣ひとり」は一回り小さく、
以後、四六版、栃折久美子の装幀に統一されます。
また、予告では
山村聰の「釣りと人生」が「釣りひとり」に
西園寺公一の「鈎麻酔」が「釣り六十年」に改題され出版されました。
服部善郎の「ダイナミック・フィッシング」は未刊で終わります。
そして、笠木實の「魚狗の歌」は
何故か釣魚名著シリーズからはずされていきました。
「垢石釣游記」の編集者であった島村利正の「鮎釣記」は出版予告を掲載されていましたが、
果たせず亡くなりました。